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日記の一葉

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©courtesy of Amierl Family (Częstochowa)

 街路のはずれ、アーリア人区との境い目に立っているウクライナ兵は、窓の中に気配をわずかでも感じると撃ちこんだ。父さんは神経を張りつめ、「父さんのあとについて、建物ぎりぎりのところを這いすすむんだよ」といった。かつて、友だちにかこまれて笑いさんざめきながら鞄を持って学校に通った道を、わたしは父さんと四つん這いになって進んだ。突風が土ぼこりを舞いあげ、一瞬、目がくらんだ。ウクライナ兵が3発撃ってきた。銃弾がヒューッと頭上をかすめる数秒間、父さんとわたしは凍りつき、それからまた這いつづけた。それほどの道のりではなかったが、わたしには永遠につづく距離に思えた。わが人生で最も長い道だった。最近、あの時の銃弾の音で、夜、目が醒める。
 病院の重い門扉にへばりつき、握りこぶしをつくって、死にもの狂いで門を叩いた。父さんの知り合いのユダヤ警官がこっそり開けてくれた隙間から、父さんとわたしは中庭にすべりこんだ。父さんが警官に緑色の札束を渡した。そこから、すべてがあっという間に進行した。素早すぎるほどだった。警官はわたしたちをうす暗い倉庫に連れていき、懐中電灯をつけて、壁板を1枚、それからもう1枚、剥いだ。壁に黒い穴が現れた。

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